大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)1118号 判決

被告人 神野喜三郎

〔抄 録〕

記録並びに原裁判所が取り調べた各証拠を検討すると、本件は、昭和五〇年四月一三日施行の栃木県議会議員選挙に際し、宇都宮市選挙区から立候補した増渕賢一の選挙運動者である被告人が、いまだ同人の立候補届出のないのに同人の選挙運動者亀和田巌ほか一名に対し原判示趣旨のもとに現金二〇〇万円を供与して事前運動をしたほか、増渕の選挙運動者大塚辰治ほか一名に対し前同趣旨で現金六〇万円を供与した事案であって、その犯行の経緯・態様・罪質等、特に、被告人は、本件選挙運動の中心的存在であり、選挙運動の推進に積極的かつ重要な役割りを演じたものであること、供与の金額も少いものではなく、それは被告人の一方的発意に基くものであることなどを考慮すると、犯情は悪質であって、被告人の刑責は、選挙の公正を確保する観点からしてとうていこれを軽視することを許さない。ところで、公職選挙法所定のいわゆる公民権停止の制度は、選挙の公正保持が民主政治の根幹であるところより、選挙の公正を害する選挙犯罪により処罰された者を選挙の不適格者として一定期間公職の選挙に関与させず、これより排除し、もって選挙の公正を確保すると共に、本人の反省を促し、併せて他戒の効果を挙げることを目的として設けられたものであって、公職選挙法二五二条により明らかなように、選挙犯罪により処罰されたものに対しては少なくとも五年間公民権を停止することを原則とし、例外的に裁判所が情状によりその不停止又は停止期間の短縮を宣告できる裁量権を認められているにすぎないと解すべきところ、他面選挙事犯につき刑の執行猶予が言い渡された場合は、猶予期間の経過により刑の言渡がその効力を失い、判決によって当然停止された公民権も猶予期間の経過と共に回復される結果となるのであるから、選挙事犯において刑の執行猶予期間を裁定するに当たっては他の一切の犯情を考慮すると同時に特に公民権停止の要否をしんしゃくしたうえ、適正な期間を量定しなければならないものと解するのが相当である(東京高等裁判所昭和三九年一二月二三日判決・裁判速報一二九七参照)。そこで、これを本件についてみると、本件は、前記のとおり悪質な買収事犯であり、当裁判所の事実調の結果認められる原判示の選挙における右候補者の選挙運動員らが犯した同種違反事件の量刑、その他この種事犯に対する量刑一般との権衡を考えると、被告人には、本件と同種の前科がないこと、その他被告人の反省の程度、家庭の事情等被告人に量刑上有利な又は同情すべきすべての情状を十分しんしゃくしてみても、原判決が本件につき被告人を懲役二年六月に処し、三年間の刑の執行猶予を付したのは、前記公民権停止制度の趣旨に鑑みその執行猶予の期間に関する限り軽きに失すること所論のとおりであるから、論旨は理由がある。

(谷口 金子 小林)

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